内定辞退とは — 基本の考え方
内定辞退は、採用側から出された内定を応募者側が断ることを指します。法的には労働者の権利として認められており(民法627条)、辞退自体はいつでも可能です。ただし「いつ」「どう」伝えるかで、企業側への迷惑度と自分の信用への影響は大きく変わります。本ガイドは、この「いつ・どう」の正解を、すべての状況別に解説する柱記事です。
このガイドで解決できること
「電話とメール、どっちを先にすべき?」「承諾書を出した後でも辞退できる?」「辞退の連絡後、返信がきたらどう返す?」「理由を聞かれたらどう答える?」など、内定辞退に関する全疑問を1記事で解決します。具体的な例文は、各セクションで文書生成ツールへのリンクから即座に作成できます。
監修者ワンポイント / 佐野真由美
「辞退すると履歴に残って不利になる?」というご質問をよくいただきますが、企業間で応募者情報が共有されることは個人情報保護法上できません。ただし同じ企業への再応募は不利になる可能性が高いので、辞退時のコミュニケーションは丁寧に、が鉄則です。
タイミング別の正しいフロー(5フェーズ)
自分が今「どのフェーズにいるか」で取るべき行動は大きく変わります。以下の5フェーズで自分の状況を確認してから、対応を決めてください。
- 1
フェーズ1: 内定通知を受けただけ(承諾前)
まだ正式な意思表示をしていない段階。メール1通で辞退可能。文面は「お礼→辞退の意思→簡潔な理由→お詫び」の4ブロックで300〜400字程度。電話は不要だが、到達確認の意味で送信後に「先ほどメールをお送りしました」と短く連絡するとより丁寧。
- 2
フェーズ2: 口頭で承諾を伝えた後
書面は未提出だが、口頭の合意は成立している段階。この場合は「電話で謝罪→その日のうちにメールで正式連絡」の2段階。電話での謝罪は3分以内で簡潔に。理由を詳しく聞かれても「熟慮の結果でございます」で押し通して構わない。
- 3
フェーズ3: 承諾書を提出済み
双務的な合意が成立している段階。企業側は採用計画を確定させているため、辞退の影響は大きい。電話連絡が必須。メールは「電話で伝えた内容の書面化」として後追いで送る。電話では「大変恐縮ではございますが」を冒頭に、謝罪トーンを強める。
- 4
フェーズ4: 内定式に参加後
関係が深まっている段階。電話+メールに加え、可能であれば直接訪問しての謝罪を検討。特に大手企業や地元採用の場合、訪問は強力な誠意の表明。直接訪問が難しい場合はZoom等のビデオ通話も代替案。
- 5
フェーズ5: 入社日直前(2週間以内)
最も重大な段階。民法627条により法的には解約可能だが、企業側の採用計画に深刻な影響。電話+訪問+メールの3点セットが基本。場合によっては採用担当部署の役職者への挨拶も必要。「申し訳ございません」を何度も繰り返す覚悟で。
絶対にやらない:連絡なし辞退(バックレ)
連絡せず内定式や入社日に現れない「バックレ」は、損害賠償請求の検討対象になり得ます。特に入社日直前の場合、企業側が採用にかけた実費(海外赴任準備費、社宅契約等)が発生していれば、理論上は請求の余地があります。どんなに気まずくても、電話1本・メール1通で解決する案件です。
電話・メール・訪問の使い分け早見表
自分のフェーズに応じて「どの連絡手段を、どの順序で」使うかの正解を以下の表にまとめました。
| フェーズ | 第1手段 | 第2手段 | 所要時間 | 企業側の心証 |
|---|---|---|---|---|
| 1. 承諾前 | メール | (電話は任意) | 30分 | ◎ 通常のマナー範囲 |
| 2. 口頭承諾後 | 電話 | メール(当日中) | 1時間 | ○ 誠意が伝われば問題なし |
| 3. 承諾書提出後 | 電話 | メール(当日中) | 半日 | △ 影響は大きい |
| 4. 内定式後 | 電話→訪問 | メール | 1-2日 | △ 丁寧な対応が必須 |
| 5. 入社日直前 | 電話→訪問 | メール→追加連絡 | 数日 | × 誠意の最大表明が必要 |
※ フェーズ3以降は「LINEで連絡」「メール1通のみ」は避けてください。企業側の心証を大きく損ないます。
電話での辞退、実際の進め方
電話連絡は慣れていないと緊張しますが、以下の手順に沿って話せば3分以内で完結します。事前に原稿を手元に用意しておき、深呼吸してから発信しましょう。
- 1
電話をかける前の準備(5分)
① 辞退理由を1文に整理(「他社への入社を決めました」「熟慮の結果です」等)/② 担当者の名前・部署を確認/③ 謝罪の言葉を3パターン用意/④ 手元にメモ用紙を。緊張で言葉が飛ぶのを防ぐため、要点を3行で書いておく。
- 2
かける時間帯(平日10-17時)
月曜朝と金曜夕方は避ける。火〜木の午前中が最も繋がりやすく、相手側の対応余裕もある。昼休み(12-13時)と終業直前(17時以降)はNG。
- 3
最初の5秒で名乗る
「お世話になっております。◯月◯日に内定をいただきました、◯◯大学の山田太郎と申します。◯◯様はいらっしゃいますでしょうか」と一息で伝える。採用担当者が不在の場合、「折り返しのご連絡」を依頼し、後ほどかけ直す旨を伝える。
- 4
本題(30秒以内)
「お忙しいところ恐れ入ります。先日内定をいただいた件でご連絡いたしました。誠に勝手ではございますが、熟慮の結果、内定を辞退させていただきたくお電話を差し上げました」
- 5
理由を聞かれたら
「他社への入社を決めさせていただきました」「家庭の事情により」「一身上の都合により」のどれかで十分。詳細を問われても「申し上げられる範囲を超えております」と丁寧に遮って構わない。しつこく聞かれても感情的にならない。
- 6
締めの挨拶(10秒)
「貴重なお時間を頂戴したにもかかわらず、誠に申し訳ございませんでした。貴社のますますのご発展をお祈り申し上げます。失礼いたします」。相手が電話を切るのを待ってから受話器を置く。
- 7
電話後の対応(30分以内)
通話内容を書面化し、メールで「先ほどお電話にて失礼いたしました」として送信。通話で出た論点(例:承諾書の返却等)は、メールで確認の一言を添える。
メール文面の好例とNG例
電話の後、あるいはメール単独で辞退する際の文面例。件名→本文の組み立ては4ブロック「お礼→辞退の意思→理由→お詫びと結び」で統一すると失敗しません。
◎件名: 内定辞退のご連絡(氏名)
用件・氏名が一目で分かる。企業の受信箱で即座に内容が伝わり、緊急対応が必要な内容として開封される確率が上がる。
×件名: ご相談
何の相談か不明。他の応募者の連絡と区別がつかず、返信漏れの原因になる。辞退連絡での最悪の件名。
◎本文例(承諾前・承諾後共通ベース)
お世話になっております。 ◯月◯日に内定のご連絡をいただきました、◯◯大学の山田太郎です。 先日は貴社より内定のご連絡を賜り、誠にありがとうございました。 誠に勝手ではございますが、熟慮の結果、内定を辞退させていただきたく、ご連絡いたしました。 貴重なお時間を割いていただいたにもかかわらず、このようなご連絡となり、深くお詫び申し上げます。 末筆ながら、貴社のますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。
×NG本文: 「他社の方が条件が良かったため辞退します」
他社との比較・条件面の不満を書くのは厳禁。相手の判断・事業を否定する印象を与え、心証を大きく損ねる。辞退理由は「熟慮の結果」「一身上の都合」程度で十分。
×NG本文: 「辞退させていただく方向で考えております」
「考えている」は意志が弱く、相手に「説得の余地がある」と受け取られる。さらなる連絡を招く原因。明確に「辞退させていただきたく」と断言する。
企業から返信が来た時の対応
辞退連絡に対して企業から返信が来るケースがあります。返信の種類によって、返し方が変わります。
「承知いたしました。貴殿の今後のご活躍をお祈り申し上げます」のような短い返信。こちらも短く「ご確認いただきありがとうございました。貴社のご発展をお祈り申し上げます」で締める。1往復で完結。
「再度ご検討いただけないでしょうか」等の返信。丁寧に、しかし明確に「熟慮の結果でございます。申し訳ございません」と断る。感情的にならず、誠実に。
「差し支えなければ辞退の理由を教えてください」等。詳細を答える義務はない。「申し上げられる範囲を超えており、恐縮です。熟慮の結果とご理解いただければ幸いです」で丁寧に遮る。
「お送りいただいた承諾書の返却をお願いいたします」等。素直に応じ、返送方法(郵送 or 持参)と期限を確認して対応。返送時の送り状に「このたびはご迷惑をおかけしました」の一言を添える。
3営業日以内に返信がなければ、電話で到達確認。「先日お送りしたメール、お目通しいただけましたでしょうか」と一言。企業によっては辞退連絡への返信をしない方針もあり、無返信=受領済みのケースが多い。
よくある失敗と改善策
実際の採用担当者インタビュー(2025-2026年・当社調べ、匿名)から、「これは困った辞退例」として挙がる代表5パターン。
承諾書を出した後にメール1通のみで辞退。件名は「お世話になっております」。
電話での謝罪を先に。メールは電話後の「書面化」として送る。件名は「内定辞退のご連絡(氏名)」で内容を明示。
理由を「他社の方が年収が100万円高かったので」と具体的に書く。
「熟慮の結果」「他社への入社を決めさせていただきました」程度で十分。条件面の比較は相手の事業を否定する印象を与える。
内定式後に、LINE で担当者へ「辞退します」と連絡。
ビジネス連絡はLINEで完結させない。必ずメールまたは電話で。LINE は補助的連絡手段(「お電話してもよろしいでしょうか」等)にとどめる。
辞退の意思を「検討中」「保留」「少し迷っています」等と曖昧に伝える。
明確に「辞退させていただきたく」と断言。曖昧な表現は「説得可能」と受け取られ、さらなる連絡を招く。
SNS で「◯◯社を辞退した」と公開投稿。
辞退の事実は非公開に。業界内で広がると今後の転職活動全体に悪影響。特に同業界の転職では、5-10年後に再会するケースも実際にある。
法的な観点 — 辞退は権利、ただし誠実さが必要
内定辞退は労働者の権利として認められていますが、時期・方法によってはリスクが残ります。以下の法的基礎を押さえておきましょう。
- ✓損害賠償請求は理論上可能だが、実務ではほぼ発生しない
- ✓例外: 入社直前の辞退で、企業側が実費を支出済みの場合(海外赴任費・社宅契約等)
- ✓労働者側の辞退意思は、口頭でも有効だが、書面(メール含む)で証跡を残すのが安全
- ✓2週間ルールは「労働者保護」のための制度。辞退時期が早いほど企業側への迷惑は小さい
民法627条と内定の法的性質
内定は「始期付解約権留保付労働契約」とされ、入社日の2週間前までに辞退の意思表示をすれば法的に成立します(民法627条)。この2週間ルールは、承諾後・承諾書提出後・内定式後でも同じく適用されます。 ※ 出典: 厚生労働省「労働契約法のあらまし」(mhlw.go.jp)。個別の事情は労働基準監督署または各都道府県労働局にご相談ください。
監修者ワンポイント / 佐野真由美
「法的には辞退できる」は事実ですが、それを根拠に雑な連絡をすると業界内で評判が悪くなります。特に同業界で転職する方は、5年後10年後に前の企業の採用担当者と再会するケースが実際にあります。法的権利と、誠実なコミュニケーションは別物です。
辞退前の最終チェックリスト
辞退連絡の前に、以下のチェックを済ませましたか?当てはまらない項目があれば、連絡前に対応してください。
辞退の意思は固まっているか
「迷っている」状態で連絡すると、企業側から引き止められた時に揺らぐ。決断してから連絡。
自分の今のフェーズを確認したか
承諾前/承諾後/承諾書提出後/内定式後/入社直前 のどれか。フェーズで対応が変わる。
連絡時間は適切か(平日10-17時)
昼休み・終業直前・休日・早朝は避ける。火〜木の午前が最も良い。
辞退理由を1文で整理したか
「熟慮の結果」「他社への入社を決めた」「一身上の都合」のいずれか。具体的すぎる理由は不要。
謝罪の言葉を3パターン用意したか
「誠に恐縮ではございますが」「勝手を申し上げ」「誠に申し訳ございません」等、場面に応じて使い分け。
電話原稿を手元に用意したか
緊張で言葉が飛ばないよう、要点を3行で書き出しておく。
引き止められた時の断り文句を決めたか
「申し上げられる範囲を超えており恐縮です」「意志は固く、ご理解いただければ幸いです」等。
メールの件名を確定したか
「内定辞退のご連絡(氏名)」が鉄板。曖昧な件名は避ける。
返信が来た時の返し方を想定したか
受領確認・引き止め・理由質問・書類返却・無返信 の5パターン。
SNS投稿は控える覚悟があるか
辞退の事実は非公開に。業界内で広がると今後に影響。