— Workers' Accident Compensation Insurance
労災完全ガイド
申請方法・認定基準・補償内容・会社が嫌がる場合の対処まで
労災(労働災害)は仕事や通勤が原因の負傷・疾病・死亡を国が補償する公的制度。けがだけでなく過労による脳・心臓疾患、パワハラ等によるうつ病も対象です。会社が申請を渋るケースは「労災隠し」という犯罪。労働者本人が直接申請する方法から認定基準・7種類の給付まで、被災労働者・遺族・人事担当者向けに整理しました。
— What is
労災とは何か
労災(ろうさい / 労働災害)は、労働者が仕事や通勤を原因として負傷・疾病・障害・死亡したときに、国が治療費や休業補償などを給付する公的保険制度です。根拠法は「労働者災害補償保険法(労災保険法)」。保険料は全額事業主負担で、労働者の自己負担はゼロ。アルバイト・パート・派遣・日雇い・外国人労働者を含むすべての労働者が対象になります。
最大の特徴は給付内容の手厚さ。健康保険(自己負担3割)と異なり療養費は実質無料、休業中も給与の約8割が補償される。さらに障害が残れば年金、死亡すれば遺族年金まで支給されます。一方で会社側に保険料率上昇や行政指導のデメリットがあるため、労災申請を渋る・隠そうとする違法行為(労災隠し)が後を絶ちません。労働者の正当な権利として理解しておきましょう。
— Comparison
労災の3類型 — 業務災害・通勤災害・第三者行為災害
| 類型 | 対象 | 給付名 | 申請様式 |
|---|---|---|---|
| 業務災害 | 業務中のけが・疾病・過労・メンタル | 補償給付 | 様式5号 等 |
| 通勤災害 | 通勤途上の事故・けが | 給付(「補償」なし) | 様式16号の3 等 |
| 第三者行為災害 | 他人の行為で被災(交通事故等) | 業務 or 通勤+届出 | +第三者行為災害届 |
※ 業務災害は「補償給付」、通勤災害は「給付」と呼称が異なる(法律上の根拠条文の差)。給付内容は基本的に同じ。第三者行為災害は加害者がいる場合で、損害賠償との調整が入ります。
— Conditions
労災の認定条件
CONDITION 1
業務遂行性
事業主の支配・管理下で業務に従事していたか。就業時間中の職場での作業はもちろん、出張中・社外研修・社用での移動も対象。休憩時間中の事業所内での出来事も原則対象になります。
CONDITION 2
業務起因性
負傷・疾病が業務に内在する危険が現実化したと認められるか。私的行為や本人の故意・重過失による事故は対象外。「業務遂行性」と「業務起因性」の2要件を満たして業務災害になります。
CONDITION 3
過労死等の認定基準(脳・心臓疾患)
発症前1ヶ月に概ね100時間、または2〜6ヶ月平均で月80時間超の時間外労働があると業務と発症の関連性が「強い」と評価される(過労死ライン)。短時間でも勤務間インターバル不足・不規則勤務・拘束時間長期・出張多回数・心理的負荷を伴う業務など労働時間以外の負荷要因も総合考慮されます。
CONDITION 4
精神障害の認定基準(メンタル労災)
厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づき、対象疾病(うつ病・適応障害・PTSD等)を発症し、業務による心理的負荷が「強」と評価されれば認定。具体例: 月160時間超の時間外労働、業務上の重大事故、長時間のパワハラ・セクハラ、人間関係トラブル等。
CONDITION 5
通勤災害の合理性
住居と就業場所間の合理的経路・合理的方法での移動中であること。逸脱・中断中(寄り道・私用)は原則対象外だが、日用品購入・病院受診・選挙投票など「日常生活上必要な行為」は最小限の範囲で再開後にまた労災対象に戻ります。
— Schedule
申請から給付までの流れ
Day 0
負傷・発症 → 会社・上司に連絡(日時・場所・状況を記録)
Day 0〜1
医療機関を受診。受付で「労災です」と申告(健康保険証は出さない)
Day 1〜7
様式5号(療養補償給付請求書)を医療機関 or 労基署に提出。会社の事業主証明欄を記入してもらう
休業4日目〜
休業補償が必要なら様式8号(休業補償給付請求書)を労基署に提出
提出後1〜3ヶ月
労働基準監督署が事実関係を調査・認定判断(過労・メンタル案件は半年〜1年以上かかる場合も)
認定後
療養費は全額給付・休業補償は給付基礎日額の80%(休業給付60%+特別支給金20%)が支給開始
※ 様式5号は最寄りの労働基準監督署またはe-Govポータルでダウンロード可能。労災指定病院なら様式5号を病院に出すことで自己負担なしで治療できます。
— Benefits
労災の7種類の給付
BENEFIT 1
療養(補償)給付 — 治療費全額
治療費・薬剤費・入院費・手術代・通院交通費が全額給付。労災指定病院なら自己負担0円で治療を受けられる(現物給付)。指定外なら一旦立替え後に償還払い(様式7号)。
BENEFIT 2
休業(補償)給付 — 給与の約8割
療養のため働けず賃金を受けられない4日目から、給付基礎日額の60%(休業補償給付)+20%(特別支給金)= 計80%が支給される。最初の3日間は会社が平均賃金の60%を補償(業務災害のみ)。
BENEFIT 3
傷病(補償)年金
療養開始後1年6ヶ月経過しても治癒(症状固定)せず、傷病等級1〜3級に該当する場合、休業給付に代えて年金として支給。1級は給付基礎日額の313日分/年。
BENEFIT 4
障害(補償)給付
治癒(症状固定)後に障害が残った場合、障害等級に応じて支給。1〜7級は年金、8〜14級は一時金。1級は給付基礎日額の313日分/年、14級は56日分/一時金。
BENEFIT 5
介護(補償)給付
障害(補償)年金または傷病(補償)年金の受給者で常時 or 随時介護が必要な状態のとき、月額で支給。常時介護で月額上限約17万円、随時介護で月額上限約8.5万円(2026年度)。
BENEFIT 6
遺族(補償)給付
業務 or 通勤が原因で死亡した場合、遺族に年金(受給資格者がいる場合)または一時金(いない場合は給付基礎日額の1000日分)を支給。配偶者・子・父母等の優先順位あり。
BENEFIT 7
葬祭料(葬祭給付)
葬祭を行った人に支給。315,000円+給付基礎日額の30日分、または給付基礎日額の60日分のいずれか高い方。
※ 「給付基礎日額」は事故・発症前3ヶ月の平均賃金。賞与は別途特別支給金で考慮。
— CAUTION : 労災隠しは犯罪
会社が労災を嫌がる/隠そうとするケースの対処法
労災申請されると会社は保険料率の上昇・労基署の調査・行政指導・社会的信用の失墜などのデメリットがあるため、申請を妨害する違法行為が後を絶ちません。労災隠しは労働安全衛生法100条違反で50万円以下の罰金(刑事罰)。労働者は決して泣き寝入りしないでください。
よくある違法な手口
- ①「健康保険を使え」と指示する: 業務災害に健康保険を使うのは違法。会社の指示でも従わない
- ② 治療費を会社が立替えるからと言う: 労基署に届けないまま示談を狙う典型的な労災隠しパターン
- ③ 事業主証明を拒否する: 証明欄が空白でも申請可能。労基署で受理される
- ④「お前のミスだから労災じゃない」と圧力: 業務起因性は労基署が判断する。会社の主張に法的効力はない
- ⑤ 申請を取り下げろと迫る・解雇を匂わせる: 申請を理由とした不利益取扱いは労基法違反
労働者が取るべき対処
- 事実を記録: 発生日時・場所・状況・目撃者・指示内容をメモ・録音
- 医療機関で「労災」と申告: 健康保険証は出さない
- 労働基準監督署に直接相談: 会社の証明なしでも申請OK。無料相談窓口あり
- 労働組合・弁護士に相談: パワハラ・労災隠しが絡む場合は専門家を入れる
- 労災保険相談ダイヤル: 0570-006031(厚生労働省・平日9:00〜17:00)
会社のパワハラが原因の場合は パワハラ対処法ガイド、退職を視野に入れる場合は 仕事辞めたい時の判断ガイド も参照してください。
— RELATED CLAIM
労災と一緒に確認したい権利
過労やメンタル労災のケースでは、未払い残業代の請求や有給消化もあわせて検討すべきです。長時間労働が原因なら未払い残業代が発生している可能性が高く、退職前に有給を完全消化するのも労働者の正当な権利。
— FAQ
よくある質問
Q. 会社が労災申請を拒否したらどうすればいい?
労災保険の申請は労働者本人が直接労働基準監督署に行うことができます。会社の協力(事業主証明)が得られない場合でも、その旨を記載すれば受理されます。最寄りの労基署または労災保険相談ダイヤル(0570-006031)に相談を。会社による申請拒否や妨害は「労災隠し」として労働安全衛生法違反(50万円以下の罰金)に該当する犯罪行為です。
Q. うつ病やメンタル疾患は労災になりますか?
なります。仕事による強い心理的負荷(長時間労働、パワハラ、セクハラ、過重責任など)が原因で精神疾患を発症した場合、労災認定の対象です。厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づき、業務による心理的負荷が「強」と評価されれば認定されます。
Q. 過労死ラインは何時間ですか?
過労死ライン(脳・心臓疾患の労災認定基準)は、発症前1ヶ月に概ね100時間、または発症前2〜6ヶ月平均で月80時間超の時間外労働です。これを超えると業務と発症の関連性が「強い」と評価されます。なお勤務間インターバル不足や不規則勤務など労働時間以外の負荷要因も総合考慮されます。
Q. 通勤途中の事故は労災になりますか?
なります(通勤災害)。住居と就業場所の合理的な経路・方法による移動中の負傷・疾病・障害・死亡が対象です。ただし通勤経路を逸脱・中断した場合は原則対象外。日用品の購入や病院受診など「日常生活上必要な行為」での寄り道は再開後から再び労災対象になります。
Q. 労災で健康保険を使ってしまった場合はどうなる?
原則として労災では健康保険は使えません。誤って使ってしまった場合は、加入している健康保険組合に連絡し、労災への切り替え手続きを行います。会社が「健康保険を使え」と指示するのは違法行為(労災隠し)なので、その指示には従わず労働基準監督署に相談してください。
Q. 労災申請には会社の証明が必要?
様式5号(療養補償給付請求書)などには事業主証明欄がありますが、会社が証明を拒否しても申請は可能です。「事業主の証明を得られない理由」を記載すれば労基署で受理されます。証明拒否そのものが労災隠しとして指導対象になります。
Q. 労災を申請すると会社にバレますか?
労災保険は労働基準監督署と会社が手続き上関わるため、会社に通知が行きます。ただし労災申請は労働者の正当な権利であり、申請を理由とした解雇・降格・嫌がらせは労働基準法・労働契約法に違反する不利益取扱いです。報復を受けた場合は労基署や弁護士に相談してください。
Q. 労災の時効は何年ですか?
給付の種類によって異なります。療養補償給付・休業補償給付は2年、障害補償給付・遺族補償給付・葬祭料は5年が時効です。発症から時間が経っていても請求できる可能性があるので諦めずに労基署に相談を。なお過労死・過労自殺の遺族請求も5年以内なら可能です。
Q. アルバイト・パート・派遣でも労災対象?
対象です。労災保険は雇用形態を問わずすべての労働者(アルバイト・パート・派遣・日雇い・外国人技能実習生)が対象。保険料は全額事業主負担で、労働者の自己負担はゼロ。「うちはバイトに労災ない」と言う会社は違法です。
Q. 労災申請したら解雇されない?
労災申請を理由とした解雇は労働契約法違反で無効です。さらに療養のために休業する期間とその後30日間は法律上解雇できません(労働基準法19条)。それでも解雇を強行された場合は労働審判・訴訟で復職と賠償を請求できます。
— Next Step
会社との交渉が必要な場合
残業代未払い・違法解雇・労災申請拒否などのトラブルは弁護士相談が現実的解決策。初回無料の労働問題専門事務所も多く、法テラスなら費用立替制度もあります。並行して転職活動も進めておくと安心です。
— RELATED
関連リソース
- → 過労偏差値診断ツール(あなたの労働環境の異常度を可視化)
- → 過労死ラインチェッカー(月80h/100h超え判定)
- → パワハラ対処法ガイド(メンタル労災に直結する加害類型)
- → 仕事辞めたい時の判断ガイド(限界サインの見極め)
- → 退職届テンプレート(労災後の退職)
- → 残業代請求ガイド(時効2年・併用請求)
- → 有給休暇完全ガイド(消化・買取・退職時)