— Occupational Physician
産業医の完全ガイド
面談の進め方・話していい内容・休職判断まで
産業医は「治療する医師」ではなく就業可否を判断する医師。長時間労働、ストレスチェック高ストレス、復職前など、面談の場面ごとに役割が変わります。「会社に何が伝わるのか」「拒否できるのか」「休職判断の重みは」など、不安になりやすいポイントを労働安全衛生法に沿って整理しました。
— What is
産業医とは何か
産業医(さんぎょうい)は、労働安全衛生法に基づき事業場で労働者の健康管理を行う医師のこと。常時50人以上の労働者を使用する事業場には選任義務があり、1,000人以上(または有害業務500人以上)では専属産業医が必須です。
最大の特徴は「治療をしない医師」であること。診断・処方箋発行・診断書作成はできません。役割は「労働者の健康状態と職場環境のマッチング評価」と「会社への就業上の措置に関する意見」に限定されています。だからこそ、主治医とは別の中立的立場から相談できる存在として機能します。
— When
面談が必要になる4つのケース
CASE 1
長時間労働(月80時間超の時間外労働+本人申出)
時間外・休日労働が月80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者から申出があった場合、会社は産業医面談を実施する義務があります。月100時間超は申出なしでも会社が勧奨する責務あり。
CASE 2
ストレスチェックで高ストレス判定+本人申出
年1回のストレスチェックで「高ストレス者」と判定された場合、本人の申出により産業医面談を受けられます。申出をしたことを理由に会社が不利益取扱いをすることは法律で禁止されています。
CASE 3
休職からの復職前(復職判定面談)
病気休職から復帰する前に、就業可能な状態かを評価する面談。主治医の「復職可」診断書だけでは不十分で、産業医が職場環境とのマッチングを判定します。リワークプログラム参加や試し出社の提案がされることも。
CASE 4
本人申出による任意面談
心身の不調・人間関係のストレス・ハラスメント被害など、上記3ケースに該当しなくても本人が希望すれば面談可能です。多くの会社で「健康相談窓口」として案内されており、利用は自由。
— Comparison
産業医 vs 主治医 vs 人事部 の立ち位置
| 立場 | 役割 | 守秘義務 | 会社への報告 |
|---|---|---|---|
| 産業医 | 就業可否の判断 | あり(法的) | 意見書のみ(措置) |
| 主治医 | 診断・治療・処方 | あり(法的) | 本人同意なしには不可 |
| 人事部 | 労務管理・配置 | 業務上のみ | 経営層へ共有あり |
| 上司 | 業務指示・評価 | なし | 人事と共有 |
※ 産業医に話した内容は「面談記録」として保管されますが、会社に渡されるのは「就業上の措置に関する意見書」のみ。話の中身そのものは伝わりません。
— Procedure
面談の流れ(典型例)
STEP 1
面談申込(本人申出/会社勧奨)。人事または健康管理担当者経由
STEP 2
事前資料の記入(問診票・労働時間記録・ストレスチェック結果等)
STEP 3
面談実施(30〜60分)。対面またはオンライン。守秘空間で実施
STEP 4
産業医が「就業上の措置に関する意見書」を作成
STEP 5
会社が意見書をもとに就業措置を決定(業務軽減・配置転換・休職等)
STEP 6
フォローアップ面談(必要に応じて1〜3ヶ月後に再面談)
— Topics
相談していい内容・控えるべき内容
OK — 相談していい
- 睡眠障害・食欲不振・倦怠感
- 業務負荷の過大さ・残業の多さ
- 人間関係のストレス・ハラスメント被害
- うつ・不安・パニック等のメンタル不調
- 持病の悪化・通院との両立困難
- 復職への不安・配置転換の希望
NG — 産業医では対応外
- 診断書の発行依頼(主治医へ)
- 処方箋・薬の変更相談(主治医へ)
- 労務トラブルの法的判断(労基署/弁護士へ)
- 給与・評価制度への不満(人事へ)
- 同僚の通報・密告
産業医は「健康と就業のマッチング」の専門家。治療や法的判断ではなく、「いまの職場で健康に働けるか」「どんな配慮があれば働けるか」を一緒に整理する相手だと考えると、相談すべき内容が見えやすくなります。
— CAUTION
守秘義務と例外、会社への意見書の範囲
産業医には法的な守秘義務があり、面談内容は原則として会社に伝わりません。ただし以下の例外があります。
- ① 自殺・他害リスクが切迫している場合: 安全配慮義務上、必要最小限の情報を会社・家族・医療機関と共有することがあります
- ② 本人が同意した情報: 「会社にこう伝えてください」と本人が了承した内容は意見書に反映
- ③ 法令に基づく開示請求: 労災申請や訴訟等の法的手続きで開示が必要な場合
会社に渡される「就業上の措置に関する意見書」は通常、以下の範囲に限定されます。
- 就業区分(通常勤務/就業制限/要休業)
- 必要な就業上の配慮(残業制限・出張制限・配置転換等)
- 次回面談の必要性と時期
医療行為ではありません: 本ガイドは産業医制度の解説であり、診断・治療の代替ではありません。具体的な症状や治療相談は必ず主治医・かかりつけ医にご相談ください。緊急時は救急要請(119)またはこころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)へ。
— Action
面談後に会社が打つべき措置
産業医の意見書を受け、会社は労働安全衛生法第66条の8に基づき就業上の措置を講じる義務があります。措置の内容は段階的に重くなります。
LV.1
業務軽減
残業制限(月20時間以内等)、深夜業禁止、出張制限、休憩時間の追加
LV.2
業務内容変更
作業時間短縮、ノルマ軽減、ハラッサーとの接触回避、業務量の再配分
LV.3
配置転換
別部署への異動、別チームへの配置、勤務地変更
LV.4
休職
病気休職(就業規則による)。傷病手当金の対象。期間は会社規定により1〜3年が一般的
会社が意見書を無視して措置を講じない場合、安全配慮義務違反として会社に法的責任が生じることがあります。措置に納得できない場合は、再度の産業医面談・主治医のセカンドオピニオン・労働基準監督署への相談を検討してください。
— FAQ
よくある質問
Q. 産業医に話したことは会社に伝わる?
産業医には法的な守秘義務があり、面談で話した「内容そのもの」は会社に伝わりません。会社に渡されるのは「就業上の措置に関する意見書」のみで、業務軽減・配置転換・休職要否といった措置の必要性に関する判断が中心です。ただし自殺リスクなど安全配慮義務上やむを得ない場合は例外的に共有されることがあります。
Q. 産業医面談は断れる?
長時間労働(月80時間超+本人申出)やストレスチェック高ストレス者の面談指導は、本人申出が前提のため法律上は拒否できます。ただし会社が安全配慮義務を果たすために強く勧奨するケースが多く、断り続けると就業上のリスク(配置転換・休職命令等)が生じることがあります。一度受けてみる方が結果的に有利な場合が多いです。
Q. 休職を勧められたらどうすればいい?
産業医の意見書はあくまで「医学的判断に基づく意見」で、会社が最終的な就業措置を決めます。納得いかない場合は主治医のセカンドオピニオンや、人事との面談で業務軽減等の代替案を協議できます。ただし健康を損なった状態での無理な就業継続は症状を悪化させるため、休職を勧められたら一度立ち止まって検討することを推奨します。
Q. 産業医と主治医の違いは?
主治医は「あなたの治療を行う医師」で診断・処方を担当。産業医は「就業可否を判断する医師」で治療は行わず、職場環境と健康状態のマッチングを評価します。産業医面談で薬の処方や診断書発行はできません。治療は必ず主治医のもとで継続してください。
Q. ストレスチェックで高ストレス判定が出たら?
高ストレス者には産業医面談を受ける権利があります(本人申出制)。面談を申し出ても会社に不利益取扱いをすることは法律で禁止されています。申出をしないと会社にチェック結果は伝わらないため、面談を希望する場合は積極的に申し出てください。
Q. 産業医面談で何を話せばいい?
心身の不調・睡眠の状態・食欲・業務負荷・人間関係のストレス・ハラスメントの有無などを率直に伝えてOK。守秘義務があるため正直に話して問題ありません。逆に「会社に良く見られたい」と無理して元気を装うと、必要な就業上の配慮を受けられなくなるため逆効果です。
Q. 産業医面談の所要時間は?
一般的に30分〜60分。長時間労働の面談指導は30分程度、メンタル不調や復職判定面談は45-60分が目安。事前に問診票を記入し、当日は対面またはオンラインで実施します。複数回に分けて行うこともあります。
Q. 産業医のいない会社(50人未満)はどうすれば?
労働者50人未満の事業場には産業医選任義務がないため、地域産業保健センター(地さんぽ)の無料相談を利用できます。医師・保健師による面談・健康相談・ストレスチェック後の面談指導を提供しており、本人や事業者からの依頼で利用可能です。
Q. 面談記録はどこに保管される?
産業医が作成する面談記録は、事業者が5年間保管する義務があります。ただし保管されるのは産業医の手元または健康管理室で、上司や人事が自由に閲覧できる形ではありません。本人は開示請求が可能です。
— Next Step
環境を変えるという選択肢
心身に不調が出る環境で耐え続けるより、合う環境への移動が長期キャリアにとって正解。エージェントは復職支援や時短勤務OKの求人も扱っています。在職中の登録で焦らず進められます。
— RELATED
関連リソース
- → うつ病・適応障害の完全ガイド(休職・復職・治療の流れ)
- → パワハラ対処ガイド(産業医・社外相談窓口の使い方)
- → 労災申請ガイド(過労・メンタル不調での労災認定)
- → ストレスチェックツール(セルフチェック)
- → 過労死ラインチェッカー(月80時間超の判定)
- → 仕事を辞めたい時の判断ガイド(続ける/休職/退職の選び方)