— Fixed Overtime Allowance
固定残業代の完全ガイド
違法ケース・超過分請求・年俸制の落とし穴まで
固定残業代(みなし残業・定額残業代)は制度自体は合法ですが、判例で示された3つの要件を満たさなければ無効。「みなし時間を超えた残業代も請求できない」と誤解させる悪用が横行しています。求人票での見抜き方、超過分の計算、年俸制との関係まで全方向から整理しました。
— What is
固定残業代とは何か
固定残業代(こていざんぎょうだい)は、毎月一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支給する制度のこと。「みなし残業代」「定額残業代」とも呼ばれます。例えば「月30時間分の固定残業代5万円を含む」という形式で、実際の残業がそれより少なくても多くても、一定額が固定で支払われます。
注意すべきは「固定時間を超えた分の残業代も込み」ではないこと。みなし時間を超過した残業については、会社は別途割増賃金(1.25倍以上)を支払う義務があります。この超過分の存在を知らずに泣き寝入りしている労働者が極めて多いのが実態です。
CHECK
自分の給与に固定残業代が含まれているかは、給与明細・労働契約書・就業規則を確認。「営業手当」「業務手当」など別名称で運用されているケースもあります。
— Conditions
合法要件3つ(判例ベース)
最高裁判例(高知県観光事件・テックジャパン事件・国際自動車事件など)で示された、固定残業代が有効と認められるための3つの要件です。これを1つでも欠く場合、固定残業代は無効と判断され、支給済みの固定残業代分も含めて残業代を再計算した未払い分の請求が可能になります。
CONDITION 1
基本給と固定残業代が明確に区分されている(明確区分性)
給与明細・労働契約書で「基本給○円・固定残業代○円」と金額が分離して明示されていること。「月給25万円(固定残業代込み)」のような曖昧な記載は無効。区分されていなければ全額が基本給扱いとなり、残業代を別途満額請求できます。
CONDITION 2
何時間分の残業代に相当するか明示されている(対価性)
「固定残業代5万円(月30時間分)」のようにみなし時間が明記されていること。時間が示されないと、超過分の計算根拠が成立せず、制度として無効になる可能性が高い。
CONDITION 3
超過分は差額が支給されている(差額支給)
みなし時間を超えた残業について、毎月差額が計算・支給される運用が必要。「みなし時間を超過しても固定額のみ」「超過分も含む」と契約書に書かれている場合は違法。実態として超過分が一度も支払われていなければ、その時点で要件を欠きます。
— ILLEGAL PATTERNS
違法になる5つのパターン
以下に該当する場合、固定残業代は無効と判断される可能性が高く、過去の未払い残業代を遡って請求できます。
- ① 基本給と区分なし: 「月給25万円(固定残業代込み)」のように金額が分離されていない。最も多い違法パターン。
- ② みなし時間が不明: 「固定残業代5万円」とだけ記載され、何時間分か明示されていない。
- ③ 超過分が一度も払われていない: 制度上は「超過分支給」と書かれていても、実態として支払われた実績がない。
- ④ 月45時間を大幅超過の固定時間: 月60時間・80時間分の固定残業代など、過労死ラインを前提とした制度設計。公序良俗違反で無効になる判例あり。
- ⑤ 基本給の水増し目的: 最低賃金を満たすため、または月給を高く見せるために固定残業代を組み込んでいるケース。基本給が極端に低いと違法判定されやすい。
— Calculation
超過分の請求額を計算する
固定残業代のみなし時間を超えた残業について、超過分の残業代がいくらになるかを実例で計算します。
EXAMPLE
条件: 基本給25万円、固定残業代5万円(30時間分)、月所定労働時間160時間、ある月の実残業時間60時間
① 時給単価 = 250,000 ÷ 160 = 1,562円
② 残業単価(1.25倍) = 1,562 × 1.25 = 1,953円
③ 超過時間 = 60h − 30h = 30時間
④ 超過分の請求額 = 1,953 × 30 = 58,590円
これが「会社が別途支払う義務のある金額」。固定残業代5万円とは別に、毎月この金額が発生していたなら過去3年分(時効)で約211万円の請求権があります。
深夜・休日割増にも注意
22時〜5時の深夜労働は1.5倍(残業1.25 + 深夜0.25)、法定休日労働は1.35倍。固定残業代の対象がどの区分かも確認が必要です。月60時間超の残業は1.5倍(2023年4月から中小企業も適用)。
— Comparison
固定残業代 vs 通常給 vs 年俸制
| 給与形態 | 残業代の扱い | 超過分請求 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 通常給(時給/月給) | 実働分を1.25倍で計算 | 全時間請求可 | タイムカード等の記録が証拠 |
| 固定残業代 | みなし時間まで含む | 超過分は別途請求可 | 合法要件3つを要確認 |
| 年俸制 | 原則として残業代別途 | 残業代請求可 | 「年俸に込み」と書いても無効が原則 |
| 管理監督者 | 残業代支給義務なし | 原則不可 | 深夜割増は支給義務あり/名ばかり管理職に注意 |
| 裁量労働制 | みなし時間で計算 | 深夜・休日は別 | 対象業務が法律で限定 |
※ 年俸制の落とし穴: 「年俸制だから残業代なし」と説明する会社は多いが、これは誤った運用。年俸額のうち何時間分の残業代が含まれるか明示されない限り、別途残業代の支給義務が会社にあります。
— Procedure
未払い残業代の請求手順
STEP 1
証拠収集 — タイムカード・PCログ・メール送信時刻・給与明細・労働契約書・就業規則を退職前にコピー保管
STEP 2
計算 — 基本給から時給単価を算出し、固定残業代の対応時間と実残業時間を比較。超過分を計算
STEP 3
内容証明郵便 — 会社に未払い残業代の請求書を送付。時効中断の効果あり
STEP 4
労基署申告 — 労働基準監督署に申告(無料)。会社に是正勧告が入る
STEP 5
弁護士・労組相談 — 会社が応じない場合は弁護士・労働組合へ。着手金無料の事務所も多い
STEP 6
労働審判/訴訟 — 3回以内の期日で結論。訴訟は半年〜1年程度が目安
詳しい手順とテンプレは 残業代請求の完全ガイド を参照。在職中で関係を維持したい場合は弁護士相談から、退職予定なら労基署と並行進行が一般的です。
— TIPS
求人票で「危険な固定残業代」を見抜く
転職活動時に求人票・労働契約書で以下をチェック。1つでも該当すれば要警戒です。
- ① 基本給と固定残業代の比率: 月給30万円のうち固定残業代が10万円(33%)を超えるなら、基本給が水増し目的で低く抑えられている可能性。基本給ベースで賞与・退職金が計算されるため不利。
- ② 固定残業時間が45時間超: 厚労省の36協定上限は原則月45時間。これを超える固定時間は「過労死ラインの残業を前提」と読める。月60時間・80時間分は赤信号。
- ③ 「超過分支給」が明記されていない: 求人票・契約書に「みなし時間を超えた分は別途支給」と書かれていなければ、合法要件を欠く可能性。
- ④ 「みなし○○手当」など別名称: 「営業手当」「業務手当」「役職手当」が実態は固定残業代というケース。手当の性質が契約書で明確か確認。
- ⑤ 面接で残業実態を曖昧にする: 「平均残業時間は?」「直近の繁忙期は?」を聞いて答えられない/濁す会社は要警戒。
- ⑥ 求人票の「月給」が高すぎる: 同職種の相場より20%以上高い場合、固定残業代で水増ししている可能性大。固定残業代の内訳を確認。
— FAQ
よくある質問
Q. 固定残業代とは何ですか?
固定残業代(みなし残業代・定額残業代)は、毎月一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支給する制度です。例えば「月30時間分の残業代を含む」という形で、実際の残業がそれより少なくても多くても、一定額が固定で支払われます。固定時間を超過した分は別途支払い義務が発生します。
Q. 固定残業代は違法ですか?
制度自体は合法ですが、判例で示された3つの要件(①基本給と固定残業代が明確に区分、②何時間分か明示、③超過分は差額支給)を満たさない場合は違法・無効と判断されます。違法と認定されると、支給済みの固定残業代分も含めて残業代を再計算した未払い分の請求が可能です。
Q. 固定時間を超えた残業代は請求できますか?
請求できます。固定残業代は「みなし時間まで」をカバーするものであり、超過分は別途1.25倍以上の割増賃金を支払う義務が会社にあります。例えば固定30時間で実残業60時間なら、超過30時間分の残業代を別途請求可能。タイムカード・PCログ等で実労働時間の証拠を残しましょう。
Q. 年俸制でも残業代は請求できますか?
請求できます。「年俸制だから残業代は出ない」は完全な誤解です。年俸制であっても、年俸額の中に残業代がいくら含まれるか明示されていない限り、別途残業代の支給義務があります。管理監督者(部長級以上で経営に関与)に該当しない限り、肩書きに関わらず残業代請求は可能です。
Q. 求人票で「みなし残業30時間込み」と書かれていたら避けるべき?
一概に避けるべきではありませんが、注意は必要です。①固定残業時間が45時間を超える場合は実態として違法レベルの残業を前提としている可能性、②基本給が異常に低く固定残業代で水増ししているケース、③「超過分は支給」が明記されていない場合は要警戒。求人票・労働契約書で必ず確認してください。
Q. 固定残業代を時給換算するとどうなりますか?
基本給÷月平均所定労働時間で時給を出し、その1.25倍が残業1時間あたりの単価です。例えば基本給20万円、月所定160時間なら時給1,250円、残業単価1,562円。固定残業代5万円なら32時間分(5万÷1,562)に相当します。会社が示す「みなし時間」と一致しない場合は計算ミスや違法の可能性があります。
Q. 固定残業代の請求はいつまで遡れますか?
2020年4月以降の労働分は3年間遡って請求できます(賃金請求権の消滅時効)。それ以前は2年。退職後も時効内であれば請求可能です。証拠(タイムカード・メール送信時刻・PCログ)は退職前にコピーで確保しておくのが鉄則です。
Q. 固定残業代が違法だった場合、どう対処しますか?
①証拠収集(就業規則・給与明細・タイムカード・労働契約書)、②労働基準監督署への申告、③弁護士・労働組合への相談、④内容証明郵便で会社に未払い請求、⑤労働審判または訴訟、という段階的対応になります。在職中で関係を維持したい場合は弁護士相談から、退職予定なら労基署と並行進行が一般的です。
Q. 固定残業代と「営業手当」「業務手当」の違いは?
法律上は固定残業代と同じ扱いになる場合があります。手当の性質として「残業代の趣旨を含む」と労働契約書・就業規則に明記され、何時間分かが示されていれば固定残業代として有効。曖昧な「営業手当」名目で残業代をごまかしている場合は無効と判断され、別途残業代を請求できます。
— Next Step
会社との交渉が必要な場合
残業代未払い・違法解雇・労災申請拒否などのトラブルは弁護士相談が現実的解決策。初回無料の労働問題専門事務所も多く、法テラスなら費用立替制度もあります。並行して転職活動も進めておくと安心です。
— RELATED
関連リソース
- → 残業代請求の完全ガイド(請求手順・内容証明・労基署活用)
- → 雇用契約書チェックリスト(入社前に確認すべき条項)
- → 残業代計算ツール(基本給と労働時間から自動計算)
- → 未払い残業代チェッカー(固定残業代の超過分を試算)
- → 過労死ライン判定(月45/80/100時間の危険水準)
- → パワハラ完全ガイド(残業強要も該当ケース)
- → 仕事を辞めたい時の判断軸(退職前の準備)